最近、AIについて熱心に語る経営者が増えました。それ自体は良いことです。

ただ、正直に言うと、少し気になることがあります。AIを自分で使い倒してもいないのに、AIを語る経営者がとても多い。あちこちでAIの提案を受けているから、なんとなく分かった気になっている。気持ちは分かります。情報は溢れているし、誰もが「乗り遅れるな」と急かしてくる。

でも、私が現場で見てきた実感から言うと、いま多くの経営者が立っている入口そのものが、少しずれています。

「AIを、何から使えばいいか」。この問いから始める限り、たいていうまくいかないのです。今日はその話をします。

■ なぜ「何から使うか」という問いが、そもそも間違いなのか

「業務効率化から?」「コスト削減?」「それとも売上アップ?」――AIで何ができるかを並べ、どれから手をつけるかを考える。一見、まっとうな進め方に見えます。

でも、ここには落とし穴があります。

「何から使うか」を考えている時点で、頭の中にあるのは「AIにやらせる作業」です。作業の話なんです。本当に問うべきは「自社の利益を一番動かす原因はどこにあるか」なのに、いつの間にか「どの作業をAIに任せるか」にすり替わっている。

そして、その「やらせる作業」を、断片的なデータだけで判断させる。ここに、最も大きな問題があります。

■ 腰が痛いとき、原因は腰にないことがほとんど

たとえ話をさせてください。

腰が痛いとき、多くの人は「腰が悪い」と思います。でも実際には、腰そのものが原因であることのほうが少ない。腸腰筋という別の筋肉が固まっていたり、ストレスが影響していたり、原因は離れた場所にあることがほとんどです。痛い場所と、本当の原因は、たいていズレている。

経営も、まったく同じです。

売上が落ちた。だから広告を増やす。利益が薄い。だから経費を削る。――こういう「いま見えている症状」への直感的な対処は、誰にでもできます。でも、それはたいてい間違っている。売上減の本当の原因が、実はリピート率の低下や、特定事業の不振や、見えていないコスト構造にあることは、いくらでもあります。腰を揉んでも、腰痛は治らないのです。

AIに「断片的なデータだけ」を渡して判断させるのは、まさに腰だけを見る治療と同じです。痛い場所のデータだけを見て、それらしい答えを出す。一見、賢そうに見える。でも、本当の原因を外していたら、その答えは無意味どころか、有害ですらあります。

■ 断片的なAIは、「データ負債」を積み上げていく

ここが、私が一番伝えたいことです。

断片的なデータでの分析と判断を、繰り返す。一つひとつは小さな判断でも、それが積み重なっていくと、会社は少しずつ間違った方向へ進んでいきます。気づいたときには、ずいぶん遠くまで来てしまっている。

私はこの状態を「データ負債」と呼んでいます。

借金と同じです。一回ごとは小さくても、間違った前提の上に判断を積み上げていけば、利息のように歪みが膨らんでいく。そして厄介なことに、断片的なAIが出すアウトプットは、もっともらしい。だから現場は信じてしまう。信じて動く。間違った方向に、効率よく進んでしまう。

「AIを入れたのに、なぜか良くならない」。そういう会社の多くは、これが起きています。AIが悪いのではありません。バラバラのまま、断片で判断させていることが問題なのです。

■ だから、順番はこうあるべきだ

では、どうすればいいのか。答えはシンプルです。

何から使うか、ではない。まず、できるだけデータを統合する。その上で、学習を始めさせる。

これが核心です。痛い場所だけでなく、体全体を見て初めて、本当の原因が分かる。会社も、事業ごと・部署ごとにバラバラの数字を一つにつないで初めて、「利益を動かす本当のレバーはどこか」が見えてくる。そこからAIに学習させ、判断させる。この順番を守るかどうかで、結果は天と地ほど変わります。

「AIで何ができますか?」とAIに相談する経営者が増えていますが、その前にやることがある。バラバラの自社データを、まずつなぐこと。それをせずに断片で聞いた答えは、腰だけ見た診断と同じです。

■ では、なぜ世の中のツールは「統合」を飛ばすのか

ここで、当然の疑問が出ます。統合がそんなに大事なら、なぜ世のAIツールやサービスは、それをやらないのか。

理由は、はっきりしています。

そもそも、多くのツールはプロダクトの思想自体が「統合」になっていないのです。特定の業務、特定のデータだけを処理するように作られている。そして、データを全部つなぐ統合プロセスは、重い。手間も時間もかかる。だから、みんな避ける。「とりあえずこの部分だけ」と、断片から入る。

その結果が、さっきの「データ負債」です。重いから避ける。避けるから断片になる。断片だから負債がたまる。この悪循環に、多くの会社がはまっています。

■ 重い統合を、どう「軽く」するか

では、避けられてきた統合を、どう実現するのか。これが、私がHELM-AIPで解こうとしている課題の中心です。

やり方は、ゼロから壮大なシステムを作り直すことではありません。逆です。すでにあるものを、つなぐことから始める。

会計、在庫、顧客、EC――会社にはすでに、たくさんのデータが各所にあります。まずはそれをつなぐ。そして、まだデータになっていないもの(紙やExcel、人の頭の中にある情報)は、後から統合しやすい形に設計してから組み込む。だから、いきなり全部をやる重い導入ではなく、非常に軽く始められる。

「統合は重い」という常識を、「すでにあるものをつなぐところから、軽く」へ。ここが、断片で処理する既存ツールとの決定的な違いです。

ちなみに、この「全体をつないで、本当に効くレバーから手を打つ」という発想は、私が思いついたものではありません。巨大企業や国家機関のデータ活用で知られるPalantirが、まさにこの方法で成果を出してきました。私はこの会社を、日本でほとんど誰も知らない頃に知る機会がありました(その経緯は別の記事に書いています)。規模を問わず効く、普遍的な方法だと確信しています。

■ 私自身が、かつてこれで失敗している

偉そうに書いていますが、私自身、かつてこの落とし穴にはまりました。

楽天時代、私はデータ活用に深く関わっていました。データが宝であることは、骨身にしみて分かっていた。でも、成果が出ないことが何度もあった。今振り返ると、活用のシナリオは秀逸でも、それを実行し、結果を学習し、また改善するというサイクルを、回し続ける深さと長さが足りなかったのです。断片的な分析で終わり、つなぎ続けられなかった。

でも、今は違います。AIの力が、当時とは比べものにならない。全体をつなぎ、学習させ、結果を見て、また打ち手を更新する。この終わりのないサイクルを、ようやく現実に回せる時代になりました。長年解けなかった宿題に、技術が追いついたのです。

■ 結論:AIを使う前に、これだけは

長くなりましたが、最も伝えたいことは一つです。

AIを「何から使うか」で迷う必要はありません。順番はもう決まっています。まず、バラバラの自社データをできるだけ統合する。その上で、学習を始めさせる。断片で判断させない。それが、データ負債を防ぎ、本当に利益を動かす唯一の道です。

そして、これは道具を入れただけでは終わりません。つないで、学習させ、結果を見て、また改善する。このサイクルを、利益が出るまで現場の隣で一緒に回し続ける存在が要ります。Palantirがこの役割をFDE(Forward Deployed Engineer)と呼び、現場に深く入り込んできたのも、同じ理由です。

もし「うちは、何から手をつけるべきなんだろう」と迷っているなら、その問いはいったん脇に置いてください。代わりに、こう考えてみてほしいのです。「うちのデータは、いま、つながっているだろうか」と。

その答えがノーなら、そこが出発点です。一度、お話を聞かせてください。御社のバラバラの数字をつなぐところから、HELM-AIPははじまります。売り込みではなく、まずは現状を整理する相談からで構いません。


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