売上は悪くない。施策もやっている。広告も出している。社員も頑張っている。それなのに、営業利益だけが、思うように増えていかない

中堅・中小企業の経営者と話していると、必ずと言っていいほど、この声に行き当たります。やることはやっている。なのに、利益という最後の数字だけが動かない。

なぜなのか。私はこれまで、リンクシェア・ジャパンや楽天スクリームでデータとマーケティングの最前線に立ち、その後は経営の現場に深く入る仕事をしてきました。その経験から見えてきた「本当の原因」は、多くの人が思っているところとは少し違います。

今日は、その話をします。心当たりがあるかどうか、読みながら確かめてみてください。

■ そもそも、社長は毎月の利益を「正確に」把握できているのか

まず、あまり語られない事実から始めます。

大企業の社長は、自社の利益をかなり正確に把握しています。理由はシンプルで、把握せざるを得ない立場にあるからです。雇われ社長であれば、株主や取締役会、オーナーに対して数字を報告する義務があり、その機会も頻繁にある。説明できなければ自分の立場が危うくなる。だから否応なく、毎月の数字と向き合います。

ところが、中堅・中小企業の、とくにオーナー社長は事情が違います。

報告すべき相手が、実質的にいない。取締役会があっても形式的なことが多い。そして何より、社長自身が「数字を確認する時間」よりも「数字を作る時間」に追われている。営業に出て、現場を回し、人を見て、資金を回す。一日が終わる頃には、月次の利益をじっくり読み解く余力など残っていません。

その結果、何が起きるか。多くの中小企業の社長は、毎月の利益の中身を、実は正確には理解できていないのです。

これは能力の問題ではありません。構造の問題です。確認する仕組みも、確認する時間も、確認する相手もない。だから「なんとなく黒字」「たぶん去年並み」という肌感覚で経営が進んでいく。利益が動かない第一の原因は、ここにあります。動かす前に、そもそも何が起きているのかが見えていないのです。

■ 数字が「事業ごとにバラバラ」だと、全体は永遠に見えない

把握しづらさには、もう一つ理由があります。数字が、事業ごとに分断されていることです。

たとえば、本業の製造小売がある。テレビ通販がある。自社ECがある。店舗もある。飲食もやっている。──こういう複数事業を持つ会社は、地方の優良企業にとても多い。それぞれの事業に、それぞれの数字がある。

問題は、その数字が別々の場所にしまわれていることです。会計はここ、在庫はあのシステム、顧客情報はまた別、ECの売上はそのプラットフォームの管理画面の中。事業ごとに担当者がいて、それぞれが自分の持ち場の数字だけを見ている。

すると、誰も「会社全体の利益」を一枚の絵として見ていない、という状態が生まれます。各事業の数字を足せば全体になるはずなのに、足し合わせる人も、足し合わせる場所もない。社長の頭の中にだけ、ぼんやりとした全体像がある。でも、それは数字で裏打ちされた像ではありません。

これでは、どこに手を打てば全体の利益が動くのか、判断のしようがない。Aの事業を伸ばすべきか、Bのコストを削るべきか、Cはもう畳むべきか。その判断材料が、つながっていないのです。

■ 実は、これは「国家機関が抱えていた問題」と同じだった

少し意外な話をします。

私は2017年に、米国の捜査・情報機関向けに技術を提供していたSqreem Technologiesという会社に出会い、2019年にジョイントベンチャーを設立しました。そのとき彼らが「競合」として挙げた会社が、Palantirでした。当時の日本では、まだほとんど誰も知らない名前です。

Palantirが何をした会社かというと、それまで縦割りで、互いにつながっていなかった政府機関のデータベースを、初めて一つにつなぎ直した会社です。CIAのデータ、FBIのデータ、それぞれがバラバラに存在していて、全体像が誰にも見えていなかった。Palantirはそれをつなぎ、意味のある一枚の絵にしました。

私はこの話を知ったとき、ある既視感を覚えました。

これは、中堅企業がまさに抱えている問題と、構造がまったく同じだ、と。

事業ごと、部署ごと、システムごとにデータがサイロ化(縦割りで孤立)していて、全体が見えない。だから正しい判断ができない。規模も目的もまるで違うのに、「散らばったデータを意味のある形につなぐ」という課題の本質は、国家機関も、地方の中堅企業も、驚くほど同じだったのです。

そして、つなぐ技術さえあれば、それはどんな現場にも効く。マーケティングでも、国防でも、そして──ふつうの会社の経営でも。これが、私がHELM-AIPという経営プラットフォームを作っている理由の一つです。

■ 「商品はいいのに、顧客データが眠っている」会社の話

利益が動かない、もう一つの大きな原因。それは、せっかく持っている資産を、お金に変えられていないことです。

中でも典型的なのが、顧客データです。

何十万件、ときには百万件を超える顧客名簿を持っている。長年の商売で積み上げた、本来なら宝の山であるはずのデータ。それが、ただ眠っている。一円も生んでいない。こういう会社を、私は本当にたくさん見てきました。

なぜ眠るのか。理由ははっきりしています。データを活かす専門家が社内にいない。活用ツールは入れたものの、売ったベンダーがその後フォローしてくれない。やろうにも、現場のスタッフの手が足りない。とくに、社長がある程度年配で、商品力で勝負してきた会社に多いパターンです。

ここに、私がずっと感じてきた一つの皮肉があります。

商品が素晴らしい会社ほど、顧客データが眠っている。逆に、顧客データを巧みに使いこなしている会社は、商品そのものはたいして良くなかったりする。後者はマーケティング戦略ばかりが立派で、もはやマーケティング会社のようになっている。

商品開発が素晴らしく、かつマーケティングも上手い。その両方を兼ね備えた会社は、現実にはほとんど存在しません。

もしあなたの会社が「商品はいいのに、データを活かせていない」側にいるなら、それは弱みではありません。最大の伸びしろです。良い商品という、最も真似されにくい資産を既に持っている。あとは、眠っているデータをつなぎ、お金に変える仕組みを足すだけだからです。

■ 楽天時代に痛感したこと、そして「今は違う」と確信していること

データが宝であることを、私は楽天時代に骨身にしみて理解しました。当時、楽天データの活用に注力していたからです。

ただ、正直に告白します。データを活用しても、パフォーマンスが出ないことが、たくさんありました。

なぜか。今振り返ると、データの活用パターンやシナリオ自体は秀逸だったのに、「それを実行して、結果がどうだったかをフィードバックし、学習して、また次に活かす」というサイクルを、回し続ける長さと深さが、まだまだ足りなかったのです。一度きりの分析で終わってしまう。仮説は立てても、検証して改善し続ける体力がなかった。

でも、今は違います。

AIのパワーが、当時とは格段に違う。仮説を立て、実行し、結果を読み、学習して、また打ち手を更新する。この終わりのないサイクルを、人間だけでやろうとすると必ず息切れしました。今は、そこをAIが支えられる。だから私は、ようやく「データが本当にパフォーマンスにつながるフェーズ」に入ったと実感しています。

長年データの可能性を信じながら、実現しきれなかった。その宿題に、いま技術が追いついた。私がこのタイミングで動いているのは、偶然ではありません。

■ では、ツールを一つ導入すれば解決するのか

ここで、多くの経営者が考えることがあります。「じゃあ、何か良いツールを入れればいいのか」と。

その問いに、私はいつもこう問い返します。

「利益を創出するためのツールって、この世に存在するんでしょうか」

会計ソフトは会計を記録します。CRMは顧客を管理します。BIツールはデータをグラフにします。それぞれ特定の課題は解決する。でも、「利益を生み出すこと」そのものを目的に設計されたツールを、私は見たことがありません。

会社の目的は、そして社長が本当にやりたいことは、利益を生み出すことのはずです。なのに、それを正面から支える道具がない。だから私は、それを作っているのです。

ただし、ここを誤解してほしくありません。ツールを入れること自体は、目的ではありません。

本当に必要なのは、ツールを起点にして、その組織を深く理解し、伴走しながら一緒に学習し、変わりゆく市場とともに変化し、適応し続けて、利益を生み出していく──そういう「モデル」です。道具を納めて去るのではなく、利益が出るまで隣に立ち続ける関わり方です。

実は、この「現場に深く入り込み、顧客と一緒に課題を解く技術者」のあり方には、名前があります。Palantirが確立した、FDE(Forward Deployed Engineer / フォワード・デプロイド・エンジニア)という考え方です。

FDEは、できあがったソフトを売って終わりにしません。顧客の現場に身を置き、その組織特有の課題を理解し、技術を「その会社で本当に効く形」に作り変えていく。ソフトウェアと現場の通訳者であり、伴走者です。Palantirが国家機関や巨大企業の現場で成果を出せたのは、優れた技術だけでなく、このFDEという関わり方があったからだと私は考えています。

そして、このFDEの発想こそ、データの専門家がいない、ツールを入れてもフォローがない、人手が足りない──そんな中堅・中小企業にとって、最も必要なものなのです。道具だけでは、会社は変わりません。変わるのは、その道具を「効く形」にして、利益が出るまで一緒に走る人がいるときだけです。

■ 最後に

もう一度、最初の問いに戻ります。広告も施策も打っているのに、なぜ営業利益は動かないのか。

その答えは、たいてい「やり方が足りない」ことではありません。

毎月の利益の中身が、正確には見えていない。事業ごとに数字が分断され、全体像が誰にも見えていない。眠っている顧客データという宝が、お金に変わっていない。そして、それらをつなぎ、利益が出るまで伴走してくれる存在が、いない。

裏を返せば、ここに手を打てれば、利益はまだ動きます。あなたの会社には、まだ使われていない伸びしろが、確実に残っているということです。

もし今、「うちのことだ」と感じる部分があったなら、一度お話を聞かせてください。御社の数字のどこに利益を動かす余地があるのか。それを一緒に見つけるところから、HELM-AIPははじまります。売り込みではなく、まずは現状を整理する相談からで構いません。


▼ HELM-AIPの詳細・ご相談はこちら https://h-pirates.com/ja/services/helm-aip

▼ なぜ私がこのプラットフォームを作るのか、原点はこちらに書きました (第1記事「Palantirを、誰も知らなかった頃に私は知っていた」